学会研究発表2012年

寒地型−暖地型芝草間のトランジションに対する刈込み作業の影響(その3)

〜数理モデルを用いた数値解析〜

(トランジション前後の芝草総密度を維持)

 

辻 英人*・熊倉 興和**

(*立命館大学理工学部 ・ **ベアズパウジャパンカントリークラブ)

Effects of turf grass maintenance management for transition

Hideto TSUJI* and Okikazu KUMAKURA**

*Department of science and engineering, Ritsumeikan Univ  **Bear’s Paw Japan Country Club

 

要旨:寒地型と暖地型芝草が共存するターフにおいて、芝草密度を維持しながら切り替わるのが理想的なトランジションである。そこで本研究では温度特性の異なる2種の芝草について草丈、葉密度、分げつ、蓄積養分を考慮した数理モデルを構築し、最も効果的な刈込み強度と時期の組み合わせについて数値解析を行った。シミュレーションでは季節による気温の変化と、定期的に草丈が減少することで刈込み作業を再現した。結果から年間を通して刈高が一定の場合よりも、種が切替わる時期に一時的に刈込みを強くすることでトランジション前後の芝草総密度を維持することができた。

 

1. 研究目的

 寒地型芝草と暖地型芝草を共存させるオーバーシーディングにおいて、春期では寒地型から暖地型へ、また秋期は暖地型から寒地型へのトランジションが行われる。例えば春のトランジションの時期に寒地型芝草の勢いが強すぎると暖地型芝草は生育が阻害され、一時的に芝草密度が低下する。これを防ぐために、適当な時期に芝草を低く刈込むことで芝草全体の密度は維持したまま芝草種の入れ替ることができる。

本研究では、寒地型と暖地型芝草のトランジションを数理モデルで再現し、数値解析によってトランジション前後の芝草総密度を維持するために、効果的な刈込み強度と時期について調べる。

 

2.  数理モデルについて

 寒地型芝草および暖地型芝草について、図‐1のようにそれぞれの葉1枚あたりの草丈()、葉密度()、新芽密度()、単位面積あたりの蓄積養分()の変化量を式‐1で表現した。添え字i,jは種を表している。草丈()は葉1枚あたりが利用できる養分(C/A)に比例して増加するが、により草丈が高くなるにしたがって伸びにくくなる。葉密度()は新芽密度()に比例して増加するが、種内および種間(種から種jへ)の密度効果により増加しにくくなる。また枯死率に比例して減少する。新芽密度は蓄積養分()に比例して生産されるが、新芽密度が高すぎるとにより増加しにくくなる。また新芽から葉に生長することでにより減少し、枯死率に比例して減少する。ここで、とし、草丈()が刈込まれることにより分げつが促される効果を表した。蓄積養分()は葉面積(Ai Hj )での光合成により生産されるが、種内および種間(の密度効果により光が遮られる。は蓄積養分の飽和を表しており、葉密度(A)が大きいときは株が大きいと考え、より多くの養分を蓄積できるものとした。また草丈の伸長{}と新芽の生産{}により消費される。

  

またを図‐2のような温度の関数とし、寒地型芝草および暖地型芝草で異なった温度特性を表現した。環境条件として日平均気温が0℃から30℃まで周期的に変動し、その周期を1年としている。その中で3日に1回の割合で刈込み作業を行い、草丈(H)を任意の高さに揃えた。



 

2.  数値解析の方法

 まず刈高が季節を問わず一定の場合(1cm、0.7cm、0.5cm)の合計芝草密度を比較した。次に刈高1cmを基本とし、任意の時期に一時的に低刈した場合の寒地型と暖地型の合計葉密度を比較した。今回は春のトランジションとして5月、6月、7月、秋のトランジションとして8月、9月、10月にそれぞれ刈高0.7cmと0.5cmの2通りで計算した。ただし今回のシミュレーションでは、寒地型、暖地型ともに多年生とし、芝草生育中の播種による追加は考慮していない。

 

3.  結果と考察

(1)刈込み強度一定の場合の合計芝草密度の変化

年間通して刈込み強度が一定の場合、刈高1cmでは寒地型→暖地型のトランジション後に密度が低下した。刈高0.7cmではトランジション後の密度は十分あるが、冬期に密度が低下した。刈高0.5cmでは寒地型が消滅し暖地型のみの芝生となった(図‐3)。

(2)春期および秋期の刈込み強度と合計芝草密度の変化

 5月、6月、7月の3通りの時期に低刈したところ、トランジション後の密度が最も高かったのは6月の低刈だった。また8月、9月、10月の3通りの時期に低刈したところ、トランジション前後の密度が最も高かったのは9月の低刈だった。そこで春期のトランジションでは6月に、また秋期のトランジションでは9月に刈込み強度を大きくしたときの合計芝草密度を図‐4に示す。

種の切替わり時期に刈込みを強くすることで合計密度を維持したトランジションを再現できた。またそのとき刈込みが弱い(0.7cm)と冬期の密度が高く、刈込みが強い(0.5cm)と夏期の密度が高くなった。実際の管理現場では、刈込みの調節と共に播種と肥培管理も併せて行われている。これらの要素を考慮した数値解析を今後の課題とする。 

  
 図‐3 合計芝草密度の変化 (刈込み強度一定の場合) 

 図‐4 合計芝草密度の変化 (6月と9月に低刈した場合)