芝草研究Vol. 20
(1991-1992) No. supplement1
P 61-62
ゴルフ場グリーンにおけるベントグラスの生育状態と気候条件との関係
熊倉興和** 大志田信義*
(柏崎CC**日本電気環境エンジニアリング*)
スポーツターフを維持する上で種類.品種.品質及び用途の異なる芝草を、自然環境と芝草の生育状態を把握し、人と自然の中で健全なスポーツターフを求めてゆく必要がある。
既に、牧草の刈取りによる生理生態研究のなかで地上部よりも地下部に多くの損害を与えることが知られている。(1961)江原、前田両氏による刈取の反復は地上部の生産や根の成長を顕著に抑制するが、一般に刈り取り頻度が多くなるほどこの影響ははげしいと述べられている。本報告は、このような観点からグリーンにおけるベントグラスの生育と気候及びスポーツ性との観点から1988年より3年間の収奪量をはじめ約38項目の各種生データと各地のゴルフ場における過去3年間の各種データの関連性をコース管理の立場で、経験測とコンピュータによって検討してみた。
調査材料及び方法
1)品種ペンクロスベントグラス(ワングリーン)
2)グリーン面積580平方メートル
3)床土サンドグリーン
4)観測及び測定項目(気象・土壌・芝草・管理作業・来場者)
(気象関係) ゴルフ場内に設置した局地観測所及び気象庁からの資料を基に毎日測定した。
(根の長さ) サンプラーシャベルによってサンプリングした根を水洗いして根の長さを一週間毎に測定した。
(刈高) 芝草の成長期間中毎日刈込み、芝草の状態によって3.8〜5.0o程度刈り込みを行った。
(収奪量) グリーンの刈込みによる芝草をサンプリングして、u当たりの生重量と試験乾燥器によって72℃ で19時間一定乾燥させ、u当たり乾燃重量を毎日測定した。
(葉色値) グリーンの刈込みによる芝草をサンプリングして、稲の生育診断で用いられる葉色カラースケールで芝草数枚を毎日比較測定した。
(地温・水分) ターフ面から地下7cm付近を毎日測定した。
(パッティングクォリティ) ステインプメータ(USGA規格)によって一定地点から毎日測定した。
(管理作業) 作業を実施した日と区分を記録した。
(来場者数) 一日の来場者数を記録した。
集積した各種データによる関連性を検討するに当たって、芝草の成長とスポーツ性という観点を主にして気象をどうとらえるか検討した。この方法をとる事によって、ゴルフコースの実際の維持管理場面においてグリーンの芝草の成長と、病害虫及びプレー性等を ある程度管理者が把握し検討できると思われる。
関連性を考察
図-1は根の長さと収奪量を比較したものです。10時の気温が15℃ の位置を示す噴から根と地上部の成長が活発となり6月頃根の伸長がピークをむかえる。夏期の暑さと干ばつによる高温障害が秋になって根の損害として現れてくる事がわかる。
図-2は午前10時の気温と湿度及び収奪量を比較したものです。湿度が50%前後の位置を示し気温が15℃ まで上昇する頃、ベントグリーンの成長が始まり、この時期の気温と湿度が上下しながら成長が本格的に始まり収奪量として現れる。その後気温が26℃
以上になると成長が鈍化し、再び低下し始めると成長してくる。秋期気温が20℃ まで低下してくる頃から成長に変化が見られ15℃ を示す頃から休眠期となる。したがってベントグリーンの収奪量は午前10時の気温と湿度と深く関わっている事がわかる。
この事から(春期)気温が15℃ 付近、湿度が50%付近で芝草の成長が始まり、20℃ で安定し、25℃
から27℃ 付近で芝草の成長が鈍る。(秋期)再び気温が25℃ で成長が回復し、20℃
付近に下がってくると成長が鈍くなり、15℃ 付近で休眠期となる。
以上の考察に基づいて乾燥重量とパッティングクォリティの関連性を検討してみる事に
した。
図-3は乾燥重量とステインプメーターによるボールの転がりを比較したものである。
このグラフでは乾燥重量が1g/uの位置を示したときボールの転がる距離は約3.0m、乾燥重量が2g/uの位置を示したときボールの転がりは約2.5mになる。この事から芝草の成長とパッティングクォリティという、相反するものが両立するには一定の収奪量を保持すればよい事がわかる。この事に基づいて芝草の管理計画を考えていく必要がある。
したがって、ターフの品質とパッティングクォリティは芝草管理技術のなかで最も重要
な位置をしめている。ターフの品質を良くしても刈高の高低を変えてもボールはスムース
に速く転がるとはいえない。パッティングクォリティと芝草の生育をバランス良くコント
ロールしながら可能な範囲内でプレー性を考えて行かなければならないということである。
図-1根の伸長と乾燥重量
図-2気温・温度と乾燥重量
図-3乾燥重量とボールの転がり
謝辞
本報告にあたり江原薫名誉教授の御指導をうけたものでここに深く謝意を表し、ならび