学会研究発表2012年6月30日

ゴルフ場景観池の池蝶貝による水質浄化(第2報)

 

○中村猛利・熊倉興和**
東レテクノ株式会社・**ベアズパウジャパンカントリークラブ)

Water purification using Hyriosis Schlegeli bivalve in view of the golf course pond

Taketoshi NAKAMURA , Naoko TAKEI and Okikazu KUMAKURA**

TORAY TECHNO CO.,LTD. **Bear’s Paw Japan Country Club 

旨:
一般に、ゴルフ場の景観池は、コース内の雨水排水や河川水、地下水等を導水しており、閉鎖的な景観池では、水が停滞し水質が富栄養化しやすい。ベアズパウジャパンカントリークラブ内の幾つかの景観池では、@水色が茶褐色混濁〜緑茶褐色混濁であり透視度が低い、Aアオコが発生する、ことにより景観上好ましくない状況が継続していた。そこで、この問題に対処するため、池蝶貝を利用した水質浄化実験を実施した。今回、池蝶貝を投入することによって、一部、透視度の向上がみられたが、透視度が劇的に改善することはなかった。また、池蝶貝に真珠の核を挿入し、ゴルフ場景観池において、淡水真珠が養殖できるか検討した。 

1. 研究目的

ゴルフ場景観池の透視度が低くなる要因としては、@芝に施肥した肥料成分等が降雨等により、閉鎖的な景観池に流入し、栄養塩類が蓄積し富栄養化する。これに伴って、植物プランクトンが異常増殖し、最悪の場合、アオコが発生する。また、A鉄分を含んだ地下水等が流入し赤茶に着色する、ことなどが挙げられる。一般に、このような景観池では、水色が茶褐色混濁〜緑茶褐色混濁であり、透視度の高い透き通った水質を維持することは難しい。通常、これらの対策として、工学的な手法(ろ過や水循環等1))が用いられることが多いが、今回は、初期投資およびランニングコトスが比較的安価なバイオマニピュレーション( Bio-Manipulation )を採用した。実験は、植物プランクトン由来の浮遊物質が多い景観池に対して、池蝶貝(琵琶湖固有種)を投入し、池蝶貝による植物プランクトン等のろ過・捕食作用により水質浄化2)することを目的とする。また、池蝶貝に真珠の核を挿入し、ゴルフ場景観池において、淡水真珠が養殖できるか検討した。 

2. 実験方法

(1)景観池の概要

景観池は、水深が 0.61.1m( 平均水深0.98m)、面積が1,900 であり、貯水量が約1,900 である。景観池への水の流入は、雨天時には付近の表面水や地下浸透排水が流入し、必要に応じて操作盤により地下水を導水している。水の流出は、水位が上昇すると下流側の越流マスからオーバーフローする。池の水色は、年間を通して茶褐色混濁〜緑茶褐色混濁であり、池内で鯉を数匹飼育しているが透視度が低く、鯉を確認することが出来ない状況であった。

(2)池蝶貝の設置

池蝶貝の設置は、池内に木杭を打ち込み水中にワイヤーを設置し、池蝶貝ネットを水中に吊して外観上目立たないようにした。池蝶貝は、1ネット当たり上段に4個、下段に4個の計8個入れ、水面から50cm程度になるようにワイヤーに固定した。池蝶貝の投入は、3回に分けて行い、平成21528日に256個体( 32ネット)、平成211028日に213個体( 27ネット)、平成2241日に淡水真珠の核を入れた33個体(4ネット)を投入した( 累計502個体、63ネット)。

池蝶貝の投入割合は、総貯水量を池蝶貝の個体数で割ると、1個体当たりの水量が約3.8となり、池蝶貝の吸水量が0.2/日であることから、池蝶貝によって池の貯水量の約 1/19 量が1日にろ過される量となる。

(3)水質調査

池蝶貝による水質浄化の効果を把握するため、pH、透視度、濁度、懸濁物質( SS )、生物化学的酸素要求量( BOD )、化学的酸素要求量( COD )、全りん( TP )、全窒素( TN )、クロロフィルa( Chl-a )等について測定を実施した。測定は、池蝶貝投入前(平成2010月〜平成215月)に5回実施し、池蝶貝投入後(平成216月以降)は概ね月に1回の頻度とした。



3. 結果および考察

(1)池蝶貝の生存率

池蝶貝の生存状況を表1に示した。池蝶貝の生存率は、投入5ヶ月後(H2110月)において82.4%(256個体中45個体が死)であり、投入数量の約2割が死んだ。一般に、池蝶貝は、@酸欠(溶存酸素不足)、A農薬(特に除草剤)、B餌不足(植物プランクトンなど)に弱い。今回の調査より、@酸欠については、溶存酸素濃度を測定していないが、ネットの上段と下段の生存率が同じため酸欠の影響は小さいと考えられた。A農薬については、H223月に他の月より多量の除草剤や殺菌剤が使用されたが、H224月に421個体中19個体が死んだだけであり、除草剤や殺菌剤の影響は小さかったと考えられた。また、B餌不足については、Chl-a10460μg/lと十分に植物プランクトンが存在しており、餌不足は該当しないと考えられた。また、池蝶貝の生育環境は、pH6.59.5 ( MAX 10.2 )、水温530℃(生育可能:035℃)が適しており、最長で40年生きる。今回の調査では、pH8.110.4と一部高かったことや水温が7月から8月にかけて32℃以上と高かったことから、これらの影響が一因として死んだと考えられた。
                     

(2)水質調査結果

景観池の水質調査結果を図1に抜粋した。景観池の水質は、SSとの相関がみられ(図2)、景観池の透視度を30度以上(水質目標値)にするには、SS15mg/l 以下にする事が有効であり、SS15mg/L 以下にするには、Chl-a70μg/l 以下に抑えることが有効であることが推察された。池蝶貝投入後の水質は、何度か水質目標値を達成したが、十分な水質改善効果はみられなかった。この要因としては、池蝶貝を投入する数量が足りない事が一因として考えられた。



図1 水質調査結果(抜粋)

  

図2 SSと各水質結果の相関(抜粋)


参考文献

1)熊倉興和:ゴルフ場灌水の水質浄化,日本芝草学会秋期大会シンポジウム講演論文集,1996

2)杉万裕一:池蝶貝を用いた水質浄化、高知工科大学学士学位論文、2008

3)中村猛利・熊倉興和:ゴルフ場景観池の池蝶貝を用いた水質浄化、日本芝草学会春季大会シンポジウム講演論文集、2010