学会研究発表2010年6月13日


ゴルフ場景観池の池蝶貝を用いた水質浄化(第1報)

 中村猛利*・熊倉興和**
(東レテクノ株式会社*、**ベアズパウジャパンカントリークラブ**) 

Water purification using Hyriosis Schlegeli bivalve in view of the golf course pond

○Taketoshi NAKAMURA,Naoko TAKEI,Okikazu KUMAKURA
(TORAY TECHNO CO.,LTD.,*Bear’s Paw Japan Country Club)

要 旨

一般に、ゴルフ場の景観池は、河川水や地下水、貯水池の水を導水しており、閉鎖的な景観池では、水が停滞し水質が富栄養化しやすい。ベアズパウジャパンカントリークラブ内の幾つかの景観池では、@水色が茶褐色混濁〜緑茶褐色混濁であり透視度が低い、Aアオコが発生する、B糸状藻類が異常増殖する、ことにより景観上好ましくない状況が観測されてきた。そこで、これらの問題に対処するため、各池の特徴に合わせた水質浄化実験を行った。今回、@とAについては、池蝶貝を利用した水質浄化実験を実施し、Bについては、草食性の魚(ワタカ)を利用した糸状藻類対策を実施した。今回、現在実施中の池蝶貝を用いた水質浄化実験の結果を報告する。 

1.目的

 ゴルフ場景観池の透視度が低くなる要因としては、@芝に施肥した肥料成分等が降雨等により、閉鎖性の景観池に流入し、栄養塩類が蓄積し富栄養化する。これに伴って、植物プランクトンが異常増殖し、最悪の場合、アオコが発生する。また、A鉄分を含んだ地下水等が流入し着色する、ことなどが挙げられる。一般に、このような景観池では、水色が茶褐色混濁〜緑茶褐色混濁であり、透視度の高い透き通った水質を維持することは難しい。通常、これらの対策として、工学的な手法(ろ過や水循環等1))が用いられることが多いが、今回は、初期投資およびランニングコトスが比較的安価なバイオマニピュレーション(Bio-Manipulation)を採用した。実験は、植物プランクトン由来の浮遊物質が多い景観池に対して、池蝶貝(琵琶湖固有種)を投入し、池蝶貝による植物プランクトン等のろ過・捕食作用により水質浄化2)することを目的とする。

2.水質浄化実験方法

(1)景観池の概要

水質浄化を試みた景観池は、水深が0.6〜1.1m(平均水深0.98m)、面積が1,900m2であり、貯水量が約1,900m3である。景観池への水の流入は、雨天時には付近の表面水が流入し、必要に応じて操作盤により地下水を導水している。水の流出は、水位が上昇すると下流側の越流マスからオーバーフローする。池の水色は、年間を通して茶褐色混濁〜緑茶褐色混濁であり、池内で鯉を数匹飼育しているが、透視度が低く鯉を確認することが殆ど出来ない状況であった。

(2)池蝶貝の設置

池蝶貝の設置は、池内に木杭を打ち込み水中にワイヤーを設置し、池蝶貝ネットを水中に吊して外観上目立たないようにした。池蝶貝は、1ネット当たり上段に4個、下段に4個の計8個入れ、水面から50cm程度になるようにワイヤーに固定した。池蝶貝の投入は、2回に分けて行い、平成21年5月28日に256個体( 32ネット)、平成21年10月28日に213個体( 27ネット)の合計469個体投入した。池蝶貝の投入割合は、総貯水量を池蝶貝の個体数で割ると、1個体当たりの水量が4.1m3となり、池蝶貝の吸水量が0.2m3/日であることから、池蝶貝によって池の貯水量の約 1/20 量が1日にろ過される量となる。平成22年4月に、淡水真珠の核を入れた32個体の池蝶貝を追加する予定である( 累計501個体)。

(3)水質調査

水質浄化の効果を把握するため、pH、透視度、濁度、懸濁物質(SS)、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、全りん(TP)、全窒素(TN)、クロロフィルa(Chl-a)等について測定を実施した。測定は、池蝶貝投入前(平成20年10月〜平成21年5月)に5回実施し、池蝶貝投入後(平成21年6月以降)は概ね月に1回の頻度とした。 

3.結果および考察

(1)池蝶貝の生存率

本実験での池蝶貝の生存状況を表1に示した。池蝶貝の生存率は、11月末において89.8%(469個体中48個体が死)であり、投入数量の約1割が死滅した。ネットの上段と下段における池蝶貝の死んだ個体数は、それぞれ、上段が25個体、下段が23個体であった。

                      

   池蝶貝は、一般に、@酸欠(溶存酸素不足)、A農薬(特に除草剤)、B餌不足(植物プランクトンなど)に弱い。特に、ゴルフ場では除草剤が使用されているため、池蝶貝を用いて水質浄化を行う時には、池蝶貝の生存率が重要である。溶存酸素が不足すると下段の池蝶貝の死個体数が増加するが、上段と下段で同程度の死個体数であり、@酸欠の影響は少なかったと考えられる。また、9月に他の月より多くの除草剤が使用されていたが、9月〜11月にかけて池蝶貝の生存率が大幅に低下することはなかったことから、A除草剤の影響は小さかったと考えられる。また、Chl-aが67〜455μg/lと十分に植物プランクトンが存在しており、B餌不足は該当しないと考えられる。池蝶貝の生育環境は、pHが6.5〜9.5 ( MAX 10.2 )、水温5〜30℃(生育可能:0〜35℃)が適しており、最長で40年生きる。今回、pHが9.2〜10.3と高かったことや水温が7月に32.3℃と高かったことから、これらの影響により死滅したと考えられた。

(2)水質調査結果

水質調査結果の一部を図1に示した。池蝶貝投入前後の水質変化をみると、5月28日の投入から2週間後の6月12日には、透視度、濁度、SS、BOD、COD、TP、TNおよびChl-aが改善傾向を示していた。その後、水質が劇的に改善することはなかった。また、11月10日の池蝶貝の再配置から1ヶ月後の12月8日には、透視度、濁度、SS、COD、TP、TNおよびChl-aが改善傾向を示していた。その後、11月から1月にかけて、水質に改善傾向がみられており、現在、水質モニタリング調査を継続している。今後、植物プランクトンが池蝶貝によって捕食され、それに伴ってSSの低下〜透視度の改善が期待できる。

 
 図1 水質調査結果(抜粋)

参考文献

1)熊倉興和:ゴルフ場灌水の水質浄化,日本芝草学会秋期大会シンポジウム講演論文集1996

2)杉万裕一:池蝶貝を用いた水質浄化,高知工科大学学士学位論文,2008