学会研究発表2009年

芝草維持管理に関する数理生態学的考察（その２）

：暖地型及び寒地型芝草生長の共存に関する数理モデル

（オーバーシーディングを想定した数理モデル）

辻英人・熊倉興和^*  （立命館大学理工 ・ ^*ベアズパウジャパンカントリークラブ）

Mathematical ecology consideration of turf grass maintenance management : Mathematical model concerning coexistence

Hideto TSUJI, Okikazu KUMAKURA^*  (Ritsumeikan Univ, ^*Bear’s Paw Japan Country Club)

要旨

芝草を永年にわたり健全に維持管理する上で、芝草の品種による生長特性や環境条件の影響を把握し、人と自然の中で健全な生育環境を求める必要がある。しかし多くの環境要因が複雑に絡み合った自然環境の中では、管理技術者が試行錯誤しながら、現場に応じた維持管理の方法を模索するのが現状である。このように環境の季節変動に対する芝草の維持管理は、年間を通した工程で一つの成果を得る。またそれが継続的に適切であるかどうか知るためにはさらに数年の期間を要することになる。

そこで本研究では芝草の生育過程と環境条件の関係を数理生態学の視点から解釈し、環境条件の変化が芝草の生育にどのような影響を与えるか、また環境条件が異なる場合でも効果的な維持管理をする上で留意する点を考察することを目的とする。そのためには、芝草の生育過程に影響を及ぼす主たる要因に着目した数理モデルを構築し解析する必要がある。今回の発表では、芝草を通年にわたり緑に保つオーバーシーディングを想定した数理モデルを紹介する。

１．研究目的

暖地型及び寒地型芝草といった生長率の温度特性が異なる2種の競争関係について季節的な気温変動を考慮した基本となる数理モデルを構築する。そして効果的な維持管理に向けての数理モデルの導入と今後考慮すべき要因について考察する。

２．材料と方法

（１）  芝草生長率の温度特性のモデル化　

芝草種の成長率は最適温度で最大になり、温度がから離れるにつれて小さくなる。こうした温度に対する生長特性を式1で表した。，は定数とする。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　                                                                     ・・・式１

　暖地型芝草の生長最適温度を32℃、寒地型芝草の生長最適温度を20℃とした。また1年間の気温の変化を式2のような時間に対する周期関数で表すと（図1a、図2a、図3a）、1年間の芝草生長率は図1b、図2b、図3bのようになる。ここでは最高気温、は位相のずれ、は温度変化の周期を表す。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　              　　　　　　　　　　　　　　　　　　         ・・・式2

（２）温度の季節変動を考慮した、暖地型及び寒地型芝草の競争関係に関する数理モデルの構築

暖地型芝草と寒地型芝草を混植する場合を想定し、芝草の温度特性を考慮した単純な2種競争モデルを構築した。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　                                                                ・・・式3

ここで、を芝草の密度, を芝草の温度における生長率、を芝草の種内競争係数, を種の種に対する種間競争係数とする。

３．結果と考察

　

図1.最高平均気温26℃の場合の暖地型及び寒地型芝草の競争関係

図2.最高平均気温28℃の場合の暖地型及び寒地型芝草の競争関係

　　　

図3.最高平均気温30℃の場合の暖地型及び寒地型芝草の競争関係

図１では年間の最高平均気温が異なる場合、暖地型芝草が十分な密度に達したときに寒地型芝草を投入した結果を示す。図１では寒地型の生長につれて暖地型は減少し、最終的に寒地型芝草に入れ替わった。図２では寒地型の生長につれて暖地型は減少するが、最終的に2種が共存した。図３では寒地型の投入により一時的に暖地型は減少するが、最終的に寒地型は増加せず暖地型のみ生存した。以上のように芝草の生長率に影響する要因として季節変動する気温のみを考慮した２種競争モデルから年平均気温が上昇するにつれ寒地型占有、暖地型と寒地型の共存、暖地型占有に遷移することがわかった。
　より現実的な数理モデルを構築するために温度以外の環境要因や施肥などの人為的要因を考慮する必要がある。今後の発展として芝草生長の観測データから、芝草生長とこれらの要因の関係を統計解析により検討する。